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開催レポート

1200年の道を、もう一度歩けるように

四国遍路 宿坊再生プロジェクト 応援企画

4
8月
2026年
火曜日
四国遍路 宿坊再生プロジェクト|TEMPLE STAY

2026年8月4日(火)の夜、オンラインで「アルムナイ応援企画」を開催しました。ゲストは、ベネッセから日経を経て起業された清水耕太郎さん(株式会社テンプルステイ 代表取締役)。四国遍路の宿坊を再生するという、聞きなれない挑戦のお話です。

ふたを開けてみれば、60分のあいだに、いくつもの縁がその場で結ばれていく時間になりました。

30秒でふりかえる

当日のお話を30秒にまとめたダイジェストです(音が出ます)。

はじめに

このイベントは、有志で運営しているベネッセアルムナイネットワークの「応援企画」として開きました。卒業生の挑戦を紹介し、その挑戦に触れた人どうしがつながる——そんな場をつくれないか、という試みです。

清水さんは2013年から2019年までベネッセに在籍し、こどもちゃれんじや進研ゼミのデジタル推進を担当されていました。その後、日本経済新聞社で日経電子版のマーケティング責任者を務め、現在は自ら会社を立ち上げて、四国遍路の宿坊を再生するプロジェクトに取り組んでいます。

同じ時代をベネッセで過ごした人の「その後」に触れながら、自分にとっての「よく生きる」を考えてみる。そんなゆるやかな学びと応援の場として企画しました。

「きみなら、四国遍路をどう再生する?」

始まりは、2024年の冬でした。

人のつながりでお会いしたJR四国の会長さんから、清水さんはいきなりこう問われます。

きみなら四国遍路をどう再生する?

正直なところ、当時の清水さんに四国遍路への強い関心があったわけではありませんでした。それでも調べていくうちに、この道の見え方が変わっていきます。

四国遍路は1200年以上続く「生きた巡礼路」です。空海が持ち帰った密教だけでなく、それ以前からあった辺路修行や修験道が幾層にも重なって、いまの形になった。私たちが「お遍路さん」と聞いて思い浮かべる白装束や菅笠のイメージは、実は昭和のブーム期につくられたものだ——清水さんは1年ほど文献を読み、各地を訪ね歩いて、そこまで解きほぐしていきました。

そのうえで市場を見ると、スペインのサンティアゴ・巡礼路や熊野古道は訪問者を大きく伸ばしています。しかも来訪者の8割は30〜50代の働き盛りとファミリー層で、動機は「宗教」よりも「文化観光」へと移っている。四国遍路にも、同じ波が来ている。実際、通しで歩く「歩き遍路」は近年増えており、その多くを海外からの旅行者が占めています。

数字が語っていた、静かな危機

ところが、その人たちを迎える側が消えかけていました。

清水さんが調べた「宿坊(お寺のなかにある宿)の数」は、最盛期の60から、7〜8カ寺へ。およそ10分の1です。

驚かされるのは、この数字を誰も持っていなかったことです。観光の専門機関に聞いても、地元の関係者に聞いても、答えられる人がいなかった。だから清水さんは、60か所すべてを自分で訪ね歩いて数えました。なぜ立ち行かなくなるのかを一つずつ確かめていったそうです。

世界遺産になるのを待っていたら、その前に潰れてしまう

いま手を打たなければ、巡礼者が戻ってきたときに受け皿がない。しかもその受け皿は、宗教に触れる体験ごと失われてしまう。清水さんが宿坊にこだわる理由は、ここにあります。

「幸せになることと、不安を減らすことは違う」

このプロジェクトには、もうひとつ深いところに根っこがあります。

清水さんが京都・妙心寺の松山大耕さんと出会ったときに聞いた言葉です。

幸せになることと、不安を減らすことは違う

現代は超比較社会であり、超不安社会でもある。キャリアやライフプランという名前で未来を区切り、その区切りに追い立てられている。でも、豊かさそのものは多くなくても、不安が少ない社会はある——松山さんがブータンで気づかされた話として、清水さんは紹介してくれました。

ここで、清水さんのなかで線がつながります。

マーケティングは手段でしかない。地方創生も手段でしかない。では、その手段で何をするのか。

自分が四国遍路を再生したら、世の中の不安が減るんだろうか

これが、いまの清水さんの個人的な興味なのだそうです。スライドには「世の中の不安を減らす人間に、なってみたい。」と書かれていました。数字にきわめてシビアなマーケターの話を聞いていたはずが、いつのまにか、ずいぶん遠くまで来ていました。

動き出したプロジェクト

そして2026年7月、徳島で一軒目が開業しました。

構想の段階ではありません。すでに予約が入り、海外からの問い合わせも届いているといいます。冷凍技術を使って、アルバイトの方でも精進料理を提供できる仕組みをつくる。ベジタリアン、ビーガン、ハラールにも対応する。多言語対応も進める。複数の宿坊をネットワークとして経営することで、一つのお寺が抱えきれない負担を分け合う——聞いていて印象的だったのは、清水さんが「自分たちで全部やるつもりはない」と言い切っていたことでした。

周辺は地元の業者にぜひやってもらいたい。それをやっていくことで地元が再生していく

人数を追うのではなく、質で勝負する。そうやって受け皿が育っていけば、やがて小さな遍路宿にも人が戻り、歩いて一周できる道がよみがえる。2031年、歩き遍路が還ってくる。 それが清水さんの描くゴールです。

その場で、縁がつながった

このイベントがおもしろかったのは、ここからでした。

質疑応答で最初に手が挙がったのは、熊野古道を歩くのが好きだという参加者の方。「宿探しが本当に大変だった。ネットで調べても情報がない地域があって、現地の観光協会の方に手配してもらって、なんとか道をつないで歩いた」——清水さんが指摘した「受け皿がない」という課題を、まさに体験していた方でした。

続いて、ベネッセで四国を担当されている現役社員の方から。「先週も四国を回っていた。地域の課題は観光だけでなく教育も同じで、知恵が足りずに地域だけ解決できない構造がある」。そのうえで、「今日のお話で勇気をもらった。まだやれることがある」と話され、8月末に徳島へ行く予定があるのでぜひお会いしたい、と続きました。

そしてもう1名、参加者のアルムナイの方から。

その方は昨年ベネッセを退職し、今年3月に高知・室戸岬で民泊を始めていました。理由は、いちばん近くの宿坊に人がいなくなってしまったから。「何もない、海と山しかない」と思っていた土地に、最近やたらと外国からのお遍路さんが歩いている。だったら宿が要るだろう、と。

動きがめっちゃ似ている。思想がめっちゃ似ている。やろうと思っていたことを、全部きれいなプレゼンにしてもらったみたいで

清水さんも、室戸の宿坊が厳しい状況にあり、市から相談を受けていることを話しました。そして、こう言いました。

みんなで考えるべきですよね。団体戦で考える

同じ地域の、同じ課題に、別々に向き合っていた二人が、オンラインの画面越しに出会う。事務局として企画したこちらが、いちばん驚いていたかもしれません。

参加者の声

アンケートにご協力いただいた皆さまから、こんな声が届きました(掲載許諾をいただいた範囲でご紹介します)。

東山 高久さん

非常にシンプルな考え方×市場ずらし、という形で進められているところ、そしてかなりリサーチをきちんとされているところ、ときに関西弁がまじる語り口。清水さん自身がコンテンツとして面白い!と思いました。

大塚さん

マーケター目線、外部からの目線によるお遍路の解説が本当に参考になりました。昭和時代のマーケティングイメージしか自分にはなかったです。富士山ブーム同様に、四国のお遍路ブームはぜったいに来る気がします。

廣瀬さん

お遍路が今後伸びていく分野だと初めて知ったので驚きました。徳島に親戚がいますが、あまりその雰囲気を感じず…地元だからこそ見えていない可能性を信じて事業にされているのが素晴らしいと思いました。
私の父は車中泊と自転車で1ヶ月ほどかけてお遍路をしていました。しまなみ海道でツーリングをしたり、道の駅でご当地の食事を食べたり、ライトなお遍路だったようですが、非常に楽しそうでした。インバウンドだけでなく、国内旅行としても新たな選択肢になるよう応援しています!

参加者の方

宿坊が激減しているという現状に驚きました。大変貴重なお話を、わかりやすくお話しくださってありがとうございます。活動を応援しております。

アンケートでは、回答してくださった全員が、何らかの形で関わってみたいと答えてくださいました。「ぜひ一緒に取り組んでみたい」から「直接の参加は難しいけれど応援したい」まで濃淡はありますが、「今回は見送り」と答えた方はいませんでした。

清水さんのプロジェクトについて

プロジェクトの詳細やご連絡は、こちらからご覧いただけます。

おわりに

このアルムナイネットワークは決して大きな組織ではありませんし、有志の集まりです。それでも、それぞれの場所で灯をともしている人たちが出会えば、そこに新しい何かが生まれる。今回のイベントは、それが目の前で起きた60分でした。

清水さんのプロジェクトに関心を持たれた方は、上記のウェブサイトから直接ご連絡いただけます。宿坊に泊まってみたい、お遍路を歩いてみたい、という関わり方も、立派な応援のかたちです。

清水さん、お忙しいなか貴重なお話をありがとうございました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

またこうして、卒業生の挑戦をご紹介する機会をつくっていきたいと思います。

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